Article

対談_005「向き合うことを、まっすぐに」STYLIST 竹淵智子×UNION LAUNCH加藤公子

昨年11月、富山県立山町で開催されたUNION LAUNCH MARKET in TATEYAMA@The Market。加藤公子(UNION LAUNCHクリエイティブディレクター)がキューレートしたこのイベントにも参加したのが、2021年春夏シーズンのスタイリングを担当した竹淵智子さんだ。プライベートでも親交の深い2人に話を聞いた。

「ワークショップでの子供たちの笑顔がうれしかったです」(竹淵)

加藤:竹淵さんとはプライベートでも一緒に過ごすことが多くて、もう20年くらいのお付き合いです。
竹淵さん(以下敬称略):最初にお会いしたのが私がアシスタント時代。その後自宅がご近所同士だったのもあって仲良くさせてもらうようになって、移住された富山にも娘を連れて2回くらい泊まりにおじゃました。
加藤:そうですよね。竹淵さんはいつも仕事が早くてシャキシャキと進めてくれるので「私は何もしなくていいか」とつい甘えてしまう存在です(笑)。11月のイベントでも突然電話して「今こんなこと考えていて…」と話したら、まだ全貌も見えないのに「手伝います!」と即答してくれて。その時に竹淵さんが携わっているボランティア活動について初めて詳しく聞いたんです。ファッションをいろんな形で提供するという非営利のプロジェクトで、すごく感動してイベントにもぜひ参加してほしいと声をかけました。
竹淵:はい、「イチゴイニシアチブ」というチームをお手伝いしていて、七五三の時に児童養護施設の子どもたちに着付けをして、記念の写真を撮って一緒にお祝いをするという活動をしているんです。加藤さんから何かやろうと言ってもらった時に、スタイリストとして参加するのではない関わり方をしたいなと思ったんですよね。たまたまその「イチゴイニシアチブ」のつながりで、富山でヘアメイクアーティストをされている方が協力してくれることになって。あと友人のアーティスト、Naoki“SAND”Yamamotoさんが二つ返事で参加してくれて、養護施設の子どもたちを招いてトートバッグを作るというワークショップが実現しました。
加藤:今回のイベントは無償で手伝ってくださる方が本当にたくさんいたんです。竹淵さんのワークショップでも、出店するたび長蛇の列ができるという大人気の焼き芋屋さんが無料で子供たちに焼き芋を提供してくれたんですよね。
竹淵:そうなんです、自分たちで作ったトートバッグと一緒に美味しい焼き芋がお土産になりました。会場でも作ってみたいと声をかけてくれる方がたくさんいたので、「気持ちだけ」ということで急遽ドネーションボックスを用意して参加費代わりに協力していただきました。できあがったバッグもとても素敵だったんですよ。富山の自然のものを使って描こうというテーマで、葉っぱに絵の具を塗ってスタンプにしたり、絵を描いたり。1つ1つそれぞれの個性が出て見ているこっちも刺激をもらいました。みんなが喜んでくれて私たちもうれしかったです。
加藤:本当に何から何まで手探りのスタートだったんですが、竹淵さんには場所を提供して後は「よろしくお願いします!」って感じでバトンを渡してしまいましたよね(笑)。
竹淵:「あーそうだった、これ自分たちでやんなきゃいけないいつもの“巻き込まれ案件”だ」と富山に着いてから気づきました、冗談ですけどね(笑)。でも、本当に素敵なイベントになりましたよね。
加藤:時節柄、コロナ対策もしっかり気をつけての開催だったんですが、若い人がたくさん集まってくれて予想以上に盛り上がって。今回をきっかけにいろんな新しいつながりも生まれました。もう次回に期待する声も上がっているんですが、まずは土地にしっかり根づいた雇用や利益が生まれる基盤を作り上げて、そこから次のイベントへと発展していく、実のある町おこしになるといいなと今は思ってます。

「UNION LAUNCHで表現したいものが伝わるようになってきました」(加藤)

竹淵:GRAPHIT LAUNCH時代から加藤さんの服を見てきましたが、富山の風だったり、年齢や時代を経ての変化もあったりするんでしょうか、UNION LAUNCHになって印象に柔らかさが出てきた気がします。
加藤:意識してないですがそうかもしれません。素材を長く扱っていると、やっぱり肌に触れるものだから「痛いと嫌だなあ」と思うようになったんですよね。それでも固い生地が好きなのでついカリッとさせてしまいがちなんですが(笑)。生地屋さんが1から協力してくれるので、素材は昔以上にこだわって作らせてもらっています。
竹淵:生地屋や工場への熱い想いは、加藤さんいつも涙なくして語れないですよね。
加藤:GRAPHIT LAUNCHの頃からお付き合いがあったメインの工場も、みなさん80歳をこえてビジネスをやめてしまって、ちょうど一昨年で全部終了になったんです。本当に悲しいんですが、日本の工場の数自体がそうやって激減しているんですよね。UNION LAUNCHとしても、ユニセックスラインの新展開などでアイテム数が増えて、新しい工場を探さざるを得ない切り替わりのタイミングに直面して。でも、やっぱり声が届くというか、モノ作りが一緒にできる工場であることが大切なのでその都度さまよってます。
竹淵:加藤さんは世界観をしっかり持っている方なので作る服にそれが反映されていますけど、GRAPHIT LANUCH時代の方がさらにコアなイメージでしたよね。いまは工場さんをサポートしたいという願いだったり、みんなで一緒に作っていこうとされているので、作るものにも変化が生まれているんでしょうね。
加藤:そうですね、以前は“ファッションブランド”として服作りをしていたのが、ひとつの“プロジェクト”にしたいという想いに変わりました。昔は表現したい難しいディテールがあれば、工場さんに「なんとかお願いします」とつい無理強いしてましたが、それはあまり意味がないなと気づいたんです。それぞれの工場の強みや技術を生かしてデザインを考える方が、結果として良いモノが仕上がる。「これじゃなかった」と思いが残るものはやらないようにしているので、アイテムもどんどんフォーカスされてきています。作ったものをリニューアルしていく方が気持ちも乗るし、お客さまもちゃんと反応してくれる。パーソナルに組んで仕事をさせてもらえるバイヤーさんやディレクターさんも増えて、UNION LAUNCHで表現したいことが伝わるようになってきたなと実感してます。ありがたいです。
竹淵:春夏コレクションはより絞り込んだ印象を受けたので、定番をリニューアルしていくというアプローチを聞いてなるほどなと思いました。トレンドを追いかけることもないし、むしろ原点回帰的な、加藤さんが好きなモノを作ったんだなと感じました。
加藤:そうですね、アイテムはUNION LAUNCHのスタンダードで、それを糸の選定からこだわったオリジナルの生地で仕上げたものが多いです。デザインはベーシックで、素材も一見、普通に見える生地ですが好きな人が見たらきっと「え、何これ?」と驚いてもらえるような…。特にリネンは他には絶対ないと言えるクオリティです。

「まっすぐ向き合っているから周りも一緒にやりたいと思うんですよね」(竹淵)

加藤:竹淵さんに組んでもらった今季のスタイリングでも、全身リネンのワントーンな雰囲気とかすごく可愛いんですよね。足元は全部VANSのカジュアルで。ずっと昔からUNION LAUNCHを見てくれているので、大切なところを押さえながらコーディネートにいい意味での柔らかさや崩しを加えてくれるんです。
竹淵:合わせたい小物のリクエストを聞くと、ああ今シーズンはこういうムード、気分から生まれたコレクションなんだなと伝わってきます。スニーカーなのは結構珍しいですよね。アイテム的にも直球なものが多かったのでコーディネートもシンプルな方向性で考えました。
加藤:今季は他にも、インラインのアイテムを素材替えで提案したブランドとの別注コラボレーションもいろいろあって面白いんですよ。
竹淵:ロンハーマンとコラボレートしたリバティプリントのアイテムも可愛いなと思いました。
加藤:ロンハーマンからのリクエストでしたが、リバティプリント、実は大好きなんです。昔、それこそバイヤー時代に、サウスケンジントンの古い生地屋でよく探したりとかしてたんですよね。久々にたくさんのリバティを見て、私もすごく新鮮でした。あと3月末に新しいデニムラインがロンハーマンで先行ローンチされるんです。素晴らしい職人との再会と新しい出会いが重なりデニムラインを再構築しました。素材、加工にとことんこだわって、本藍で染めた肉厚な13.5オンスのオーガニックデニム仕上げ。未洗いのロウと経年変化加工で仕上げたエイジングの2種類あって本当にかっこいいんです。私の理想を実現したプレミアムデニムです。
竹淵:今季も楽しみです。UNION LAUNCHもそうですが、富山のプロジェクトでの取り組みを見ても、みんなが加藤さんが目指していることを意識するようになったらもっと世の中がハッピーになるだろうなと思うんですよね。加藤さんは手がけた人や作ってもらったモノにいつもまっすぐ向き合っていて、感謝しながら、敬意を持って接してますよね。その姿勢って見ていたら絶対に伝わるから、周りも手をつなぎあって一緒に作っていこうとする。つながっていなさそうで実はいろいろコネクトできるファッションと異業種とのコラボレーションも、加藤さんのような方がいると心強いなと思います。どれほど大変かも見てますし、だからこそ続けていってほしい。私自身も、これからもどんどん“巻き込まれたい!”って思ってます(笑)
加藤:ファッションって楽しいものですからね。年配の方でも、若い人たちでも、みんな共通して気持ちが上がるものだと思うんです。今回の富山のプロジェクトを通して、ファッションは町おこしにぴったりなツールだなって改めて実感しました。この盛り上がりが今後も形になって広がるといいなと思うので、がんばっていきたいです。竹淵さんも、これからもぜひ“巻き込まれ”続けてください(笑)

竹淵智子(たけぶち・さとこ)
神奈川県出身。スタイリスト青木千加子に師事し2002年独立。雑誌や広告、カタログなど幅広く活躍する一方で、ボランティア団体「イチゴイニシアチブ」のメンバーとして活動。3月15日まで期間限定で開催されている「イチゴイニシアチブ」の10年の軌跡を追ったオンライン写真展にも参加。
ichigoinitiative.jp