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手にする人を想う、基本が支えるモノ作り
山形のカットソーメーカー 大石メリヤス山形工場

地道な作業が培う
プロフェッショナルの技

「ミシンワークを目にしたら絶対誰もが感動すると思うんです」。クリエイティブ・ディレクターの加藤公子がそう熱く語るのが、山形のカットソーメーカー、大石メリヤス山形工場が誇る職人技術だ。付き合いは前身のブランド時代からと長く、仕上がりの美しさには何よりの信頼を置いている。
「なかなかお願いできない時期があって、それでもずっとラヴコールし続けていました」(加藤)。その甲斐あり、一昨年にレショップとのコラボレートで登場したUNION LAUNCHメイドのスウェットラインの制作で再開。大石メリヤスにお願いできるならと、一から企画立てして実現した。
今季もプルオーバーやパーカ、フットボールTシャツなど、UNION LAUNCHのスタンダードと呼ぶべきアイテムがここ山形工場で作られている。2月末に登場するロンハーマンとのスペシャルピース、パックTシャツも注目だ。「綿の段階からしっかり寝かせた超熟コットンを使って、前はクルーネック、後ろはミリタリーのアンダーウェアのような見返し仕様。身幅を持たせた、少し肩が落ちるシルエットが本当に綺麗な仕上がりなんです」(加藤)。
UNION LAUNCHのカットソーには二本針ミシンを使ったマタギのステッチがしばしば使われるが、その均等な仕上がりにこそ「技術の差が顕著に出る」(加藤)という。「“マタギ”は素材によって難しいですからね。腕によるところもありますが」。そう謙遜しながら語るのは、33年前の中山工場立ち上げから携わり、現在技術面を一任されている佐藤和幸係長だ。
“Tシャツ”と聞くとごくカジュアルな印象だが、実はかなりの技術力を要するアイテム。「全ての工程が手作業ですからね。布帛ならある程度自動化できますが、カットソーの場合は一切できない」と佐藤係長。
海谷寛己課長によると「ミシン調整から修理、部品加工、レイアウトまで係長が全部手がけています。自ら一緒に縫うので職人にも教えることができるし、問屋サイドに『ここはこうだから』という論理的な説明ができる」。だからこそ、主力のカットソーは当然ながら、布帛や水着、コートなど専門外のオーダーにも応えることができるそうだ。「ニット屋さんはニットしか縫えない工場が多いです。ミシンが変わるから針の太さが違うんですよね。でも我々カットソー屋は縫える。それこそ技術がないとできないこと。係長がいなかったら我々もワンパターンの Tシャツやトレーナーしか縫えなくなるかもしれません」(海谷課長)。

基本を徹底すること
職人の想いをひとつに

本社となる大石メリヤスは東京の墨田区に拠を構える。創業は昭和24年、現在舵を取るのは3代目社長の大石泰弘氏だ。山形県東根市に自社工場を設立したのが49年前。その後、ちょうどバブル期に作られたのがこの山形工場。時代は日本の縫製産業の全盛期、2つの工場でも100名を優に超える職人を抱えていた。バブル崩壊と共に大手アパレル各社は競い合うように単価の安い海外生産へとシフトしていき、日本のメーカーは軒並み苦境にさらされるようになった。影響は当然、山形工場にもおよんだ。
「昔はアパレルのスタッフさんが現場に研修に来たりもしていましたが、海外生産が一気に増えて取り引き自体がなくなったりしましたね。若い人が離れていって、長年携わっていた職人も今度は定年と重なって、ビジネスが継続できなくなった工場が多く出ました。我々も設立当初からの職人が今も現場で仕事を続けている状況ですから」(海谷課長)と振り返る。
今の山形工場を支えてきたのは「クオリティの高いモノ作りを続ける」という、1人1人に浸透する職人魂だ。優れた技術力を誇る“ジャパンメイド”の人気が追い風となり、昨今は工場への受注や工賃も見直される傾向にあるものの、国際的な競争力を前にしては依然として状況は厳しい。職人1人が8時間通して仕事をしたとしても、はたして1日何枚縫えるのか。
「安く仕上げる工場は山ほどあるから、作り手サイドとしては当然、工賃に見合うクオリティのものを作らないといけない。それは日々、考えながらやってきました」と佐藤係長。縫製までの全ては佐藤係長が現場をまとめ、最後の仕上げから出荷までは海谷課長が担当。そのフィニッシュの工程でも、山形工場の真っ直ぐな姿勢が浮かび上がる。
「いくら製品が綺麗でも、糸始末とか糸くずとか最後がきちんと処理されていないと良いものには見えないんです。それで全てが決まってしまう。お客さんが手にしたときどう思うか。笑顔で買ってもらえるなら全然問題ないし、『うーん』と悩むような製品は出したくないと思っています。それはモノを作る上での基本中の基本。30数年やってきたなかで、我々みんなが守ってきたことです」と海谷課長。
“基本を徹底する”。それこそが厳しい時代を乗り越えてきた原動力だ。「よく『他所にお願いすると顔が変わってしまう』とブランドさんから言われますね。どうしても同じ職人にお願いしたいと」(海谷課長)。各々が持つ技術力に、現場が共有するクオリティへの自負。「ここで働くみんながいないとね、ダメなんです」(佐藤係長)。そう話す2人の笑顔に、UNION LAUNCHの服が出来上がるまでの美しい物語が綴られていた。

工場内で熟練した職人たちがミシンを踏む。

今回のブックレットで表紙を飾った“ラッパ”(衿ぐりなどバインダー始末をするアタッチメント)は、ミシンの状態に合わせ佐藤係長が手作業で調整したもの。山形工場の職人技術を支える証のひとつだ。

「(初めての!)特殊ミシンなど工場の見学でいろいろと挑戦。Tシャツ作りのワークショップとか、次なる企画の夢がわいてきました」(加藤)

お客さんに笑顔で
買ってもらえるなら。
それが全てですね
海谷寛己 課長

しっとりとした肌触りに包まれる超熟コットンのTシャツパック。ロンハーマン限定のスペシャル企画でパッケージはオーガニックコットン製でトラベルバッグになっている。

ロンハーマン×ユニオンランチ 2枚入りTシャツパック ¥18,000+tax

和歌山で製作した吊り裏毛を使用したシリーズ。
柔らかく、使い込むほどに風合いが増す。ベーシックさが魅力だが、毎回サイズ感やシルエットを微調整しながら山形工場で縫製されている。

パーカ ¥29,000+tax
プルオーバー ¥24,000+tax

大石メリヤス山形工場
〒990-0401
山形県東村山郡中山町大字長崎718-4
https://slouch.jp/company/