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ゼロからスタートする無限の表現

福島のニット工場大河内メリヤス

スタンスは濃く、可能ならば必ず形にする職人仕事

なめらかなホールガーメントで仕上げられたタートルネックやVネック。クリエイティブ・ディレクターの加藤公子がUNION LAUCHのスタンダードのひとつとして認める美しいシルエットのニットは、福島県にあるニット工場、大河内メリヤスで作られたものだ。
業界でもその技術力で広く名を知られる工場で、世界に発信する日本のコレクションブランドのニットも数多く手がける。「ホールガーメントでは日本一の技術を持っています」(加藤)と、丁寧な仕事に惚れ込み、ブランド立ち上げ当初からコラボレートを続けてきた。
工場があるのは伊達市保原町。技術面を統括する大河内善大専務によると「この辺りはメリヤス産業の一大産地で、昔は数多くの工場や職人たちが集った場所」だという。大河内メリヤスは「祖父の代に農家の兼業として下請けから始まったのがルーツ。完成品まで一括して手がけるようになったのは、先代である父が会社を興した45年前です。当初は絹織物の有数の産地として知られる川俣町にありましたが、36、7年ほど前に移ってきました」と振り返る。
40台以上ある編機に向かう職人のほとんどが、この道2、30年以上のベテラン。島精機のホールガーメント横編機は9台を備える。立体で編み上げるホールガーメントは、継ぎ目がなく従来にないテクニカルな編成が可能だが、そこは職人の技術力に大きく左右される点。UNION LAUNCHのニットは一見ベーシックなフォルムながら、裾にはカーブを施し、鋭角に切り替えたラグランやVの減らしなど、ディテールに手の込んだテクニックが盛り込まれている。
「裾のアールは機械的にはあまり向いてない仕様ですが、求められると結構ムキになってやっているところがありますね(笑)。リクエストに応える引き出しは多いと我々も自負していますので、理論的・物理的に可能なら、製品にするというスタンス。そこはやはり他の工場より濃いかもしれません。相応の手間とコストがかかりますが、値段は二の次でなんとか形にして欲しいというお客さんが多いんです」と専務。

歩み続ける道
守るべき職人の技術

「仕上がりの綺麗さに感動した」と加藤があげるのがハニカム編みの1枚だ。「素肌に着られるものを作りたくて、サーマルに使われるハニカム編みをニットでできないか相談したんです。いつも難しいオーダーにもさらりと応えてくれるんですが、実はその影で並々ならぬ努力をしてくださっている」(加藤)
専務いわく、ニット作りは色の世界と一緒だという。「光の三原色ってありますよね。RGBの3つの色を組み合わせるだけで無限のカラーが作られていく。ニットも同じなんです。基本は表目を編むか裏目を編むか、もしくは目を捻って“寄せる”か、タックするか。この4つのテクニックを組み合わせることで、リブや天竺、あぜ編み、ケーブルなどができてくる。機械の技術的にはその4つだけしかなくて、そこから無限の表現を出すことができるんです」
確かに理論上はシンプルだが、それだけに奥は深い。同じ糸、同じ仕様書があっても「10社に頼んだら10社全て違うものが出来上がる」(専務)のがニッターの世界だという。
なぜなら「目の前にある生地を縫い上げる縫製とは違って、我々の仕事はゼロからの、テキスタイル作りから始まる。リンキング(縫い合わせ)も確かに技術を要しますが、ニットの物作りにおいては編みが8割から9割のウエイトを占める。柄組みが基本中の基本なんです」。パターンもないので、細かな微調整も経験でしかない。職人の技が全てを支えている。
「昔は花形産業でしたが、この辺りでも最盛期の10分の1の規模まで市場は縮小してしまいました。日本一と言われた大手から消えましたし、倒産したメーカーから移ってきた職人も多くいます。技術継承という意味では、大規模なビジネスでないと職人も産地も育たないんですよ。果たして次の世代が職人として何十年できるのか。課題も大きいですね」と専務。
今はひたすらに、要望を形にするための試行錯誤を続けていく日々。1枚の優れたニットには、作り手の想いと努力がしっかりと刻まれている。

株式会社大河内メリヤス
〒960-0676
福島県伊達市保原町千刈12

ハニカム編みのタートルネックニット。表目と裏目を交互に編み、切り替わるところで寄せるという細かな編み地で、立体的な美しい表情が仕上がっている。目の美しさと肌に優しく触れるあたたかな着心地は格別だ。
ニット¥26,000+TAX