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丁寧なステッチワークで信頼を置く
喜多方のアパレルメーカー ウエルストン

福島県の北西部、会津地方の北に位置する喜多方市は、飯豊連峰をのぞむ自然豊かな土地だ。ローカルながら誰もが知る“ラーメンのまち”には、平日でも有名店をめがけ県内外から人が集まって来る。
ウエルストンの喜多方工場があるのはその一角。活気ある明るい雰囲気の職場に19名のスタッフが働いていて、来年にはさらに12名の新しい仲間が加わるという。UNION LAUNCHの縫製をお願いするようになったのは、ちょうどコロナ禍にあった3年前から。カジュアルラインのボトムを縫えるメーカーを探していたクリエイティブ・ディレクターの加藤公子が「勉強熱心な社長が手がける工場」という評判を聞きつけ、サンプルをお願いしたのがきっかけだ。

「元々はスラックスが専門で、創業は1984年になります。父が裁断を担当して、縫うのは母。私が子供のころから母は内職でミシンを踏んでいましたから、その音が子守唄というような家でした」と話すのは、二代目として会社を継ぎ、現在は兄弟で工場を運営する石井昭一社長。
「東京でコンピュータ関係の専門学校を卒業してそのまま向こうで就職したんですが、平成3年に父が倒れてしまい急遽戻ってきたんです。ミシンの扱いは子供のころから目で見て覚えていましたけれど、裁断から仕上げのプレスまで、いまウエルストンで手がけている工程はすべて門前の小僧、我流です。見よう見まねで覚えてやり始めました」
設立当初の国内DCブランドに始まり、大手のライセンスなど高級ゾーンのブランドを手がけるなか、ダーツの先のエクボ、脇のクセ取りなど、品質への細かなリクエストにも日々研究を重ねて対応。プレス仕上げは以前は業者に依頼していたが、検品で通らないことがあり「それなら自分たちで」と手がけるようになったという。
「何か問題が発生したら、直接教えてもらうために東京のオフィスまで出かけていったりしていました。『こういうのを使っているんだけど』と仕上げ馬を片手に話に行ったこともありましたね」

喜多方エリアにも以前は縫製工場が何軒もあったというが、今はウエルストンのほか3社が残るのみ。数百人規模で人手がいた工場なども、働き手の不足や高齢化問題に直面している。ウエルストンもまた、例外ではない。
「高校を卒業して進学か就職するとなっても、地元で働くケースはほとんどなく、多くが大きな都市に出ていきます。若い人材がいなくなり、どんどん人口が減って高齢化しているのが現状です。ましてや今の時代、縫製に興味を持つ若い世代も残念ながらなかなか少ない」と石井社長。
ウエルストンでは5年ほど前より外国人技能実習制度を導入、現在は中国とカンボジアからの技術実習生を受け入れている。昨今、制度自体の見直しが進められているが、縫製の現場では人手不足の解消に大きな役割を果たしている。
「技術レベルには個人差がありますが、実習生は事前に経験を積んでいる人たちですから、教えるにしてもミシンの糸の通し方から始める未経験者とは違い即戦力です。うちで働く人たちには技術的なサポートはもちろん、積極的に日本語を勉強した方がいいよと話しています。意思疎通だけではなくて、いちばん最初に研修に来たスタッフの1人などは、学んだ日本語を生かして今は貿易会社に勤めていたりするんです。日本での経験をそうやってキャリアアップにつなげてくれればと願っています」

UNION LAUNCHのアイテムは、チノパンやファティーグパンツなどボトムのスタンダードを担当。ブランドの特性上、デザイン性の強いアイテムではないが「ステッチワークは綺麗に仕上げてもらいたいという思いが強いので、ウエルストンさんの生地の扱いに信頼を置いています」と加藤。
工場を訪れた際に目にしたのは、仕上げが上手くいかなかったサンプルを並べた一本のラック。難しい箇所を細かく記して、職人たちがすぐ手に取って確認できるよう掲げてあったそうだ。
「縫製が上手なので取り引き先の要望に応えるうちに、ボトムス専門だったのがアウターやデニムまで扱うようになられていて。社長の熱意や、人とのコミュニケーションを大切にする人柄が、この工場の原動力だなと感じます」(加藤)