Article

「UNION LAUNCHのモノ作り」
Ron Herman根岸由香里×L’ECHOPPE金子恵治×UNION LAUNCH加藤公子

「毎回何をやろうとお2人と
話をするのが楽しいんです」(加藤)

UNION LAUNCHを展開するロンハーマンとレショップ。それぞれ独自のセレクトで定評のある人気店舗だが、舵を取る根岸由香里さん(ロンハーマン ウィメンズディレクター)と金子恵治さん(レショップ コンセプター)とは、実は古くより親交がある加藤。ブレザーのカスタムオーダー会が開催されたレショップに3人が集い、モノ作りや魅力を熱く語り合った。

加藤:金子さんは元同僚で、私がバイヤー時代に一緒に出張に赴きパリの工場を巡った旧知の間柄なんです。根岸さんはUNION LAUNCHの前身GRAPHIT LAUNCH(グラフィット ランチ)からの長いお付き合い。お2人はよくお話しされたりするんですか?
根岸さん(以下敬称略):私はレショップの前を自転車でよく通るんですが、通りすがりによくお買い物させてもらっています(笑)
金子さん(以下同):ありがとうございます(笑)。なかなかこうして揃ってお話しするチャンスはないですよね。
加藤:根岸さんと金子さん、お2人とも服を愛し、たくさん見ていらした方なので、毎回「何をやろう」という打ち合わせが一番楽しい。
根岸:一緒に話をして企画ができる。UNION LAUNCHにはそういうやり方が合っているのかなと私も勝手に思っているんです。
加藤:フォルムがさほど主張しない服なので素材が変わると変身するアイテムが多いんです。好きなものはどうしても決まってしまうので、根岸さんや金子さんから違う視点でアイデアをもらえるのが新しい発見になるし、素直にうれしい。金子さんとは今回共同でブレザーを作ったんですが、“紺ブレ”へのこだわりが強すぎるところに「黒のデッドストックがあるなら黒に金ボタンもカッコいいよね」と言ってもらって。紺がすぐに完売して、旧織機で織られた生地なので再生産できないと機屋さんに言われて製作を諦めていたんですよね。
金子:加藤さんと工場を巡っていた25歳の頃から今も変わらないんですが、バイヤーとしてずっと他にはないものを探し続けているんです。それで長い間、レディスから無理なくメンズに落とし込める服を探していた。加藤さんの服は男性服の要素がレディスに落とし込まれているんですよね。それをもう一度メンズに戻す、そこの面白さが実は色々とあるんです。例えば、このブレザーは胸ポケットが少しだけ小さかったりして本来の男性服にはないバランスでできている。男の人って意外と女性服に憧れを持っているんですよ。それでメンズで取り組んでみませんかというスタートになった。全て僕が着用して(笑)、パターンから一緒に。
加藤:メンズは要望が多いんですが、足を踏み入れるのが正直怖い(笑)。今後も100%のメンズ服を作ることはないと思うんですが、金子さんとなら“ユニセックス”という形でレショップ限定でできたら面白いと思いました。
金子:ユニセックスラインの大きいサイズは一見同じ形に見えるんですけど色々と変えてあるんです。加藤さんはターゲットが明確で、しっかりとした物作りをされている。素材もすごく重厚感があったりして男勝り。それだけに単純なサイズアップではなく細部にこだわって、散々ジャケットを着てきた猛者にも認めてもらえる、大人にこそ楽しんでもらいたいブレザーになりました。

「服自体に情熱がある
“媚びない服”なんですよね」(根岸)

根岸:ロンハーマンではUNION LAUNCHをローンチからエクスクルーシブで展開させてもらったんです。共同体として服だけじゃないものを作っていくというコンセプトに共感して、一緒にお店で何か表現できたらと思いました。あと、それまでのロンハーマンの服のなかにはありそうでない空気感を持つ服だったんですよね。ベーシックだけどトラディショナルすぎず、ちょうどいいところで着地している。
金子:なるほど、感覚としてわかります。
根岸:異性や周りの目を前提にして作られたレディス服とは違って、服自体にストレートに情熱がある。“媚びない”服なんです。これをロンハーマンのお客さまが上手に着こなしてくれたら、逆にこなれた感じなるだろうと思いました。当初はお客さまにどう良さを伝えていくかが課題でしたが、火がついたのはサロペットシリーズですね。あとパンツ。一度着て良さを知ってもらえたら、絶対にファンになる服なんです。
加藤:工場ときちんと取り組みたいという思いがあるので、デザイン性よりもその工場が持つテクニックをどう落とし込むかを考える。そんなアプローチで生まれた服も多いんです。ロンハーマンでは毎シーズン、ポップアップショップをやらせてもらっていて、スタッフの勉強会での熱意がすごい。「質問ある方?」と聞くと、「はい!」って返してくれて、私自身も勉強になります。服の説明をすればするほど、みなさん結果もしっかりと出してくれるんですよね。
根岸:どういう素材やディテールで、どんな思いで作られているかをダイレクトに伝えてもらうので、心を動かされるというか、やっぱり響くんだと思います。スタッフに響いたものは、着実にお客さまにも伝わっていきますよね。
加藤:そうやって周りの方に助けられることが多いです。1人で悶々と作るのが根付いてしまっていたんですが、周りに刺激をくれる方がいっぱいいるから聞いた方が面白いなって思うようになりました。今はもう余計はものはいらなくて、求めている人のために作ろうというスタンスです。

「どこにも属さない魅力。
そのままであり続けてほしい」(金子)

根岸:あともう1つ、加藤さんとお仕事をするようになって私自身が変わったなと思うところがあるんです。ギュッとフォーカスした世界観は理想ではあるんですが、ロンハーマンの規模が大きくなってできることも変わってきた。そういう意味で色々と走ってきたんですが、加藤さんを見ていると“理想”の部分が絶対に揺らがないんです。急がないし、求めすぎない。そこは本当にいい影響をもらっていて、私の考え1つ、どうアクションするか次第で、お店としてできることや変えられることはいっぱいあるんだなと気づかせてもらえた。ロンハーマンがこの先どうあるべきか、広く考えられるきっかけをもらえたなと思っています。
金子:僕がUNION LAUNCHに魅力を感じるのは“属性がない”というところなんです。特にこのブレザーなんですが、ジャケットってブランドやテイストに左右されるところが色々とありますよね。例えば「このテイストはアメリカントラッドだな」とか。でも、このブレザーには“無味無臭”の良さがあるんです。ヨーロピアンでも着こなせるし、何にでも合わせられる。そういうブレザーって見たことがないんですよ。バリバリのワークウェアとかも、加藤さんのフィルターを通すとどこにも属さないものになる。
加藤:元々好きなテイストや年代があったりはするんです。それをどうはめ込むか。起源のないブレザーというのも、そういう作り方をしているからだと思います。私自身、“デザイナー”という感覚は全くないんですよね。
金子:いい“加減”のつけ方とか、どこか曖昧さがあるところがすごく良いポイントになっているんです。UNION LAUNCHのどこにも属さない良さ、それはこれからも守り続けて欲しいです。
根岸:女性のファッションだと、ムードや流れが強くあって、私はその楽しさは必要だと思っているんです。でもこの先を考えたときに、UNION LAUNCHはすごく大事になってくる服。着てみて納得する生地や仕立ての良さ、シンプルにすごく良い服ですよね。ここにしかないワクワクするもの、特別なものを求めているサイドとしては、何か一緒にできるブランドだし、楽しみながら長く付き合っていきたい。これからもブレずにいってほしいです。
金子:加藤さんのことだから、ブレようもなさそうですしね(笑)
加藤:そうかもしれません、がんばります(笑)

金子恵治(かねこ けいじ):EDIFICE、ETS MATERIAUXのバイヤーを歴任後に独立。自身の活動を経て、2015年4月にメンズのセレクトショップ、レショップを立ち上げる。今年6月にはオリジナルレーベル「LE」を始動。来春には都内にレショップ2号店がオープン予定。

根岸由香里(ねぎし ゆかり):文化服装学院スタイリスト科卒業。セレクトショップ勤務後、2008年のロンハーマン立ち上げ時にサザビーリーグに入社しバイヤーを担当する。2016年にリトルリーグカンパニー執行役員兼ロンハーマン事業部長、ウィメンズディレクターに就任。