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秋冬シーズンのスタイリングを手がけたのは、UNION LAUNCHの前身、GRAPHIT LAUNCH時代から親交のあるスタイリストの佐藤里沙さん。クリエイティブディレクターの加藤公子と一緒に、次世代の視点からブランドの魅力について撮影直後に語ってくれた。

「いつものユニフォームやワークの要素に、柔らかさも感じました」(佐藤)

加藤:ハッピーな撮影で楽しかったですね。こうやってお仕事するのは初めてだし、会うのも10数年ぶりくらいですよね。
佐藤(以下敬称略):はい、本当に久々で加藤さんと撮影すると聞いて緊張しました(笑)。
加藤:今回は若い世代の佐藤さんにぜひお願いしたいということになったんです。
佐藤:“若い”世代に入れてもらえるんですね、うれしい(笑)。
加藤:PR時代にいろんな方とお会いしたけれど、実際に撮影でご一緒することはなかったんですよね。なので「また改めてよろしくお願いします」という気分。やっぱり佐藤さんはひと世代若いので、自分が考えるのではない面白い発見あったりして新鮮でした。
佐藤:新作、すごく可愛かったです。加藤さんが作る服は昔からユニフォームやワークの要素が印象的なんですが、今季はどこか柔らかな雰囲気がプラスされたように感じました。
加藤:そうですね、先シーズンはパンツルック中心のコレクションだったので、今季はあえてレディライクな要素も少し取り入れてみています。
佐藤:ちょっと艶のある優しい素材使いやヒョウ柄のコートなど、それこそ男っぽさや女性らしさではない、どこか中性的なテイスト。私自身、メンズ、レディスを意識することなくスタイリングしているので素敵だなと思いました。
加藤:ヒョウ柄は何年かに1度、私の中でアニマルブームがやってくるんです(笑)。UNION LAUNCHでは初の試みで、オリジナルのジャカードで提案しています。スーパ−120’sのウールにビーバー加工を施したハラコのような美しい仕上がり。Pコートやフレアスカート、ジャンパースカートで登場しています。

「デッドストックの風合いをなんとか今に再現できないか、チャレンジですね」(加藤)

加藤:スタイリングは「セットアップで考えたものが多いです」とだけ伝えて後はお任せしました。そこは崩さずいろいろとミックスしてくれて、いつものUNION LAUNCHよりレイヤードを楽しめるコーディネートになっています。ワンピースを前後逆に着こなしているルックもあったりしますよね。
佐藤:トライしましたね(笑)。私自身、普段そんなにレイヤードはしないんですが、素材感が好きなので自然と組み合わせてみています。冬物の素材が好きなんですよね。コーディネートする時に、シャツとニットを合わせたりとか、別の素材同士を合わせてマットな表現をしてみるとか。
加藤:UNION LAUNCHの服は素材も偏りがちですから。実を言うと、今までで一番多くデッドストックの生地を使っているんです。
佐藤:加藤さんが作る服の素材は、いつも重めでしっかりした印象です。
加藤:目の詰まったハリのある素材がやっぱり好きなんです。今の織機を使ってどこまでその風合いを再現できるかリプロダクションにも挑戦してみています。1980年代のバブル期にメンズのダブルスーツで使われていたような梳毛の素材が、今も数反ずつとかで廃業した機屋に残っていたりするんです。しっかりとした打ち込みのいい生地なんですが、それを今作ろうとすると本当に大変。織機によって全然仕上がりが変わってしまうので。でも、なんとか再現できないかがんばってみています。
佐藤:レイヤードにはレッグウォーマーも活躍してますよね。シャツワンピの下にブーツではなくレッグウォーマーを合わせたりして。
加藤:レッグウォーマー、すごく気持ちのいい糸だから肌に直接触れる何かをデザインしたいと思って初めて作ってみました。数シーズン前からショートパンツを提案しているんですが、その足元に合わせたスタイリングが可愛かったです。ブーツカットになっているのでヒールにも合わせてもらえますよ。ECも立ち上げる予定なので、佐藤さんの素敵なスタイリングをみなさんに見ていただけたらなと思ってます。

「セーラーカラーも柔らかな軽さ。意外性があって新鮮でした」(佐藤)

佐藤:あと、今季のセーラーカラーのトップスの柔らかさには驚きました。UNION LAUNCHとしては結構意外な素材使いだなと感じたんです。
加藤:ローデンクロスというナチュラルな撥水機能が素晴らしい、しっかりと縮絨された梳毛生地です。このデットストックを2021-22年秋冬シーズンで全て使い切ってしまったのですが、今回は機屋のご協力のもとリプロダクションに成功しました! 昔はよくメンズのスプリングコートとかで使われていた素材なんです。それがまた若い人たちに、新しい感覚で受け入れてもらえているんだと思います。
佐藤:セーラーカラーにも惹かれます。
加藤:古着で昔から持っているものがあって、それを毎シーズン気になって眺めてはいたんです。US NAVYのイメージから、少し裾広がりのフレアパンツにセーラーカラーの組み合わせ。今季のコレクションはそこから少しずつ広がっていきました。自分が好きなスタンダードをひとつずつ形にしていっている感じですね。セーラーカラーは私の中ではすごく古いアイテムととらえていたから、若いバイヤーさんたちにこんなに「可愛い」と言ってもらえるとは思ってなかったです。
佐藤:私もセーラーカラーが好きで5枚くらい持っていますが、今季はUNION LAUNCHを着ようと狙ってます(笑)。加藤さんおすすめのセットアップで着こなしたいですね。あとはグレーのベーシックなジャケットも素敵だなと思いました。
加藤:オリジナルで別注した英国羊毛のヘリンボーンツィードのジャケットです。ジャケットは青森の弘前市にある製造工場のワークスにずっとお世話になっているんです。ハ刺しというステッチで芯地を縫い合わせてあって、内蔵物を見ても本当に美しい。シルエットがとても綺麗なんです。
佐藤:ルックでは黒のキルティングスカートに合わせてモダンに仕上げてみました。このスカートもフロアレングスのラインがとっても美しくてエレガントですよね。自分でこのジャケットを着るならデニムを合わせてみたいかな。

「納得いくモノ作りのためにもっと時間があったらといつも思います」(加藤)

佐藤:加藤さんとお仕事するって聞いたときに、ずっと昔に買ったドルマンスリーブのシャツのことを思い出しました。
加藤:覚えてます。佐藤さんがGRAPHIT LAUNCH時代に気に入ってくれた1枚ですよね。ドルマンのシャツは今でもずっとスタンダードとして作り続けていて、今季はバンドカラーに取り外せるレースの襟がついた仕様で提案してます。
佐藤:そう、そのレース使いにも今季の柔らかさを感じたんですよね。
加藤:レースは毎シーズン何かしら使いたいなと思っている素材なんです。日本の技術は本当に素晴らしいんですよ。埼玉にある伊奈レースという工場で作られたテープ状の綿レースを使っているんですが、こんなに繊細な穴かがりは、もはや伊奈レースさんでしか出来ない技術なんです。レース業界も今職人さんがどんどんいなくなって廃業せざるを得ないところが増えています。彼らが作った昔の版をもう一度現代に使えないかと頭を巡らせているんですが、いい加減なものにはしたくないので組み立てているうちにいつもタイムオーバー。実現するには、まだまだ時間がかかりそうです。シャツもファッション工房黒石という青森のシャツ工場さんで長く作ってもらっています。この工場も一度廃業を経験しているんですが、女性社長の渡辺さんがもう一度自分たちでやろうと工員を集めて立ち上げ直したんです。初めてお願いしたときに「こんなに細かく縫えるシャツ屋さんがあるんだ」と感動して、それ以来10年以上のお付き合いです。
佐藤:そうやってモノ作りと向き合う加藤さんの姿を見ると本当にすごいなって思います。日本のファッション界では失われていく技術を支える力が必要とされているし、そこに寄り添うデザイナーさんの存在はすごく求められているだろうなって。
加藤:作ってくれる工場と協業するという想いで始めたブランドだから、変な扱いは許されないなという思いがあるんですよね。今、農家さんでも顔が見えるモノ作りをしているのに、ファッション業界ってまだまだアンダーグラウンドなんです。メーカーが工場を自社で囲い込んでしまう歴史があったから、正面にいる会社が立ち行かなくなると煽りを受けて一緒に潰れてしまう。今三代目のお孫さん世代が立ち上がってがんばっていますが、UNION LAUNCHでも「この工場はこんなすごい技術やポテンシャルがあるよ」と伝えていくお手伝いをしたい。そう思って、立ち上げ当初から作られたアイテム全てに工場の名前を明記しているんです。工場さんたちに迷惑はかけられないから、良いものを作っていけるよう心がけてます。
佐藤:加藤さんがデザインするスタンダードは10年経っても着られますが、この話を聞くと大切にしてきたあのドルマンスリーブのシャツも、もっと長く着続けていきたいなという気持ちになりました。

「加藤さんが作るファッションの未来は明るいなって気がします」(佐藤)

佐藤:サステナブルが注目されてますけど、時代がやっと加藤さんに追いついてきた感じですね。加藤さんが作っているのは、いい意味でイメージが湧きやすい服。昔から変わることなく、信念を貫いて丁寧に仕上げられたものばかりです。ちょっと羨ましくなってしまうくらいぶれがない。私も最近、好きなものって変わらないんだなとよく考えます。トレンドの移り変わりで使う洋服が変わるだけで、好きな世界は結局ずっと一緒なんですよね。
加藤:大量生産して消費していく時代は終わったので、そういう意味では業界がシフトを余儀なくされていると思ってます。例えば、工場の大きな負担になっているのが、繁忙期だけに集中する生産システム。UNION LAUNCHでは閑散期の助けに少しでもなれたらと思って、シーズンに変わりなく着られる定番のピースを少しずつですが増やしていっています。
佐藤:スピード感だけじゃだめですよね。サステナブルなテーマについてはファッションに携わる1人として考えさせられます。ファッション業界は環境を汚染しているし、難しい問題をたくさん抱えてますよね。でも、加藤さんの話を聞いていると、ちゃんと向き合って作っている人がいて、未来は少し明るいなって気持ちになれます。
加藤:私も富山に移っていなかったら、経験できなかったことや手がけていなかったことが多いです。異業種とのプロジェクトでは、身近に喜んでくれる人がいて、直接会って感動を分かち合える。それって東京にいたら絶対に味わえなかったことです。ファッションと農家の協業もアパレルブランドとしてはNGかもしれないですが、UNION LAUNCHはそういう蓋をこじ開けちゃってますから(笑)。何ができるか、どう変えていけるか、そういうことが“楽しいこと”として継承できるのが一番だと思うんです。やっぱり声に出さないとみんなに気づいてもらえないですからね。とにかく「言っちゃえ!」って勢いで(笑)。同じ思いの人たちと繋がって大きなうねりにしたいです。
佐藤:生み出す責任ってありますよね。私も加藤さんについて行きます!

佐藤里沙(さとう・りさ)
2003年にスタイリスト、椎名直子氏に師事。2006年フリーランスとして活動開始。モード誌やカタログ、広告のほか、女優などアーティストのスタイリングも手がける。2017-19年に拠点をニューヨークに移して活動。「GRAPHIT LAUNCH時代に買ったシャツと黒パンツはいまだに現役、愛用してます」