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座談会_003 「響きあうコト、つながるモノ」STYLIST 金子夏子×UNION LAUNCH加藤公子

「好きなところが近いから、共通する言語が生まれるんですよね」。UNION LAUNCH 2020-21年秋冬シーズンのスタイリングを手がけた金子夏子さんに、加藤公子(UNION LAUNCHクリエイティブディレクター)との関係を尋ねると、そんな言葉が返ってきた。2人が考える今とこれから。ルックブック撮影直後に話を聞いた。

「どんな料理になるか委ねてくれる。それがうれしいです」(金子)

加藤:金子さんとはもう長いお付き合いになりますよね。出会いは私が服作りをする以前のバイヤー時代。途中間が開いたりしながら、その都度金子さんが見つけて、撮影用に服をリースしてくれたりして。
金子さん(以下敬称略):そうですね、加藤さんのキャリアのステップアップはずっと見てきて、要所要所で「こういう考え方をしているよね」と意見を交わしたり、インスピレーションを与えあったり、互いに影響し合ってきたかなと思います。とは言ってもガツガツではなくね、熱いのか緩いのかよくわからない関係(笑)
加藤:今季はルックブックの撮影を止めようかとも考えていたんです。自粛期間中、日々状況も変わっていって、やっと2ヵ月半ぶりに富山から東京に来てみんなと顔を合わせたときに「やっぱり作ろう!」と盛り上がりました。それも、今回のスタイリングは金子さん以外考えられなかったから『こんなにギリギリの日程でお願いして、それでもOKしてもらえるならやろう』って宣言したんです(笑)
金子:加藤さんから直接連絡をもらって、そこから怒涛の勢いで撮影まで漕ぎ着けましたよね。
加藤:はい、2週間で駆け抜けました(笑)。世の中の状況を考えたときに、最初はそれこそSNSを通じて1点1点を見せられればいいかなと思ったんです。でも、UNION LAUNCHは“普通の服”なんですよね、人の手が加わることで違う世界が見えてくる。それはスタイリストさんと仕事をする醍醐味。今年の1月、1年オープンしていた直営店をクローズしたんです。物に力を注いで、もっと濃くフォーカスして求める人に届けたい。そうやって軌道修正してきたのが、逆にいろんな人の手に触れることにもつながりました。スタイリストやバイヤーさんがUNION LAUNCHを違う料理にして、消費者に届けてくれる。それが自分でも楽しいんです。
金子:今の言葉は、スタイリストとしてとてもうれしいです。私たちは素材を料理する方。デザイナーが作ってくれたものをどう調理するかにかかっていて、それをスタイリストに委ねて、どんな料理に仕上がるだろうと思ってくれているのは、ありがたいなって思いました。
加藤:いつも、きっとこの人ならこういう表現してくれるのではという期待値もありながらお願いするんですが、すべてお預けして、さあどうなるんだろうというワクワクの方が勝りますね。

「スタイリングに“色気”がある。さすが金子さんだなって思います」(加藤)

金子:何かを作り上げていく過程って面白いし、今回のように感性を共有しながら手がけるのはやっぱり楽しいなと思います。加藤さんの服はこれまでもずっと見てきましたが、ルックブックというひとつの完成形になったのもうれしい。
加藤:金子さんは“色気”を作ってくれるんですよね。単にボーイッシュとかではなく、女性らしさがスタイリングのどこかに必ず出てくる。UNION LAUNCHは作りがメンズライクな服なので、私がコーディネートを組むとそのまま男の子みたいになってしまうんですよ(笑)。そこを金子さんは、ひと味違う料理に仕上げてくれる。若いころから第一線で活躍されてきて、いまだ仕事のオファーが絶えない理由がすごく良くわかります。
金子:素材やアイテム、色にこだわりがある服ですよね。そこはすごく共鳴するところで、私もメンズっぽいしっかりとしたモノ作りの服が好きなんです。ユニフォームっぽいアイテムにも惹かれますし。ただ私も自分が女性だから、その中に少しだけ色気がほしいんですよ。前面で主張する押し出しの強い色気ではなくて、きちんとしたモノの中にのぞく女性らしさ。それをほのかに感じさせられたらいいなと思いました。ボーイズのかっちりした服に、なんとなく“隙”を見せられたらいいなって。

「人の息がかかって生まれたもの。そういうものが残っていく」(金子)

金子:秋冬シーズンのコレクションは、色の印象が強く残りました。最初に目に留まったのがブルー。あと撮影でモデルが袖を通したのを見て綺麗だなと感じたのが、ベージュやカーキの色出しです。それを伝えたら、糸から作っていると聞いて。
加藤:長年、いい生地屋さんにお世話になっているんです。一緒に作らせてもらった素材をエクスクルーシブにはせず、海外の展示会で自由に発表してもらう。そうするとトップメゾンの目に留まるミラクルが起きたりするんです。UNION LAUNCH としても、互いに支え合う“協業”の一環としてやらせてもらっています。
金子:ひと口にスタンダードなベージュやカーキとも違って、本当に幅広く感じました。
加藤:ベーシックなカラーはやるなら誰も使っていない色にしたいし、ほしい色を探してもないのがほとんど。なので、色はいつもビーカー出し(本番の生地の小片を使って試験染色するカラーマッチング作業)をして作っています。今回は、ブルーは青味が強めのターコイズで、ベージュはクリームがかった色合い。素材もほとんどがオリジナルです。原毛のごく細い繊維から作ったスーパー160sのメルトンは、高密度に織り上げてもしなやかさが全然違う。ラッセル織機を使いウールとコットンの二重織で作った、裏がパイル状になった生地もおすすめで、いろんなアイテムで登場しています。スーツ地は今季もデッドストック。今の織機では作れないしっかりと打ち込まれた固めの生地です。軽さが主流の今の時代とは逆行してますが、金子さんもそこに響いてくれてますよね(笑)
金子:ですね、好きです(笑)。多分、加藤さんとはモノの価値観というか、好きなところが近いんですよね。だから何かを作りたい、一緒にやろうというときに共通する言語が生まれるのかなって思います。今回の自粛期間中、改めて人の息がかかって丁寧に作られたものはちゃんと残っていくなと思ったし、そういうことがフィーチャーされて世の中に浸透していけばいいなと感じました。

「響いてくれる人はいる。それを教えてもらいました」(加藤)

加藤:今まで糸や素材のこともあまりオープンに語ってこなかったんです。メンズでは糸から製作するデザイナーも多いんですが、レディスではあまり興味を持ってもらえないだろうと思ってました。でも、5月末にロンハーマンのECサイトが立ち上がって、「お届けするときに加藤さんの言葉がほしい」とリクエストされたんです。それで商品1点1点にコメントを書いて渡したら、みんなから反響があって。不思議だなあと思いました。自分が表に出さないようにしてきたことをいざ話してみたら、響いてくれる人がいっぱいいた。
金子:今もまだまだ大変ですが、自粛期間がいろんなことに向き合うきっかけにはなりましたよね。
加藤:はい、ファッション全体もいろいろ変わっていくのかもしれないですが、私自身もシーズンの区切りはつけたくないなと改めて感じました。時期を過ぎたらセールにする一般的なやり方ではなくて、基本的に通年売っていくものとしてモノ作りに力を注ぎたい。そのスタンスで続けてきて、バイヤーさんにも「これは定番です」と伝えられるアイテムが増えました。
金子:シーズン提案だけの服ではないと思うので、同じような売り方をする必要もないですよね。季節ごとに何かを発表しなくてもいいし、いろんなブランドがそれぞれ「私たちはこうなんです」と発信していってもいい。
加藤:結局、自分1人では何もできないなって思います。UNION LAUNCHはデザイン性の高い“デザイナーが作る服”ではないんです。 “普通の服”を、ただひたすら真面目に作ろうとやってきた。スタイリストさんやバイヤーさんの手を借りて、その服をいろんな人に届けられる。それが本当に素晴らしいなと感じます。

「流行や一過性ではなく、この先につながるプロジェクトに」(金子)

加藤:洋服作りと並行し進めている共同体プロジェクトのひとつとして、富山県立山町にある商業施設のリブランディングや使用されなくなった公共施設を利活用して、未来につなげていこうとしているんです。こんな状況下なのでやり方や対策も考えているところですが、今年の11月にイベントを開催する計画で諸々調整中です。
金子:今って地方にいろんな楽しみがありますよね。素材はまだまだ残っているし、職人技術もある。物だけじゃなく自然もあって、やれることがたくさんある。流行とか一過性のものではなく、この先も続いていくような何かになったらいいなって思っています。
加藤:そうなんです、越中瀬戸焼の素晴らしい作家さんとの出会いがあったり、地元の産品もたくさんあって、今面白い企画が進行しています。ファッションというツールでどこまで何ができるか。人と人が繋がり、みんなで一緒に楽しくやれることが土地に根付いて、継承していけたら最高ですよね。
金子:いいものを作って、それを続けて伝えていく。それって加藤さんがモノ作りでやっていることと近いですね。富山に移り住んで知った土地の魅力はきっとたくさんあると思うので、それを伝えるプロジェクトになるといいし、UNION LAUNCHにも変わらず良いモノ作りをしていってほしい。見極める目を持っている加藤さんだから、これからもそれを愛して続けていって、新しいことにもどんどんチャレンジしてほしいです。
加藤:ありがとうございます。本当にいろんな人と関わって、つながって、みんなで一緒に作っていけたらいいなと願っています。これから先も楽しみです。

金子夏子(かねこ・なつこ)
数々の女性ファッション誌やブランドのカタログを手がけ、多方面で活躍。
アウトドアにも精通していて、モードな仕事の傍らマウンテンライフに親しむ姿も有名。
@natsukokanekoop