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「”つながり”から生まれるもの」STYLIST 山本マナ×UNION LAUNCH 加藤公子

2020年春夏シーズンのコーディネートを担当したのが、独自のスタイリング世界で知られる山本マナさん。
二人の出会いは、加藤が一時期ブランドのPRをしていた時代まで遡るという。再会から今回のコラボレーション、そして次なる構想まで話を聞いた。

「『ああ、加藤さんだな』って服を見て最初に感じました」(山本)

加藤:たまたまい互いに知っていた店で再会したんですよね。
初めてお会いしたのは私がプレスをしていた時代だからもう12,3年前、それ以来。
山本マナさん(以下敬称略):はい、偶然で驚きました。服を作っていることも知らなかったから、本当にいいタイミングで再会できたなと思います。
加藤:デザイナーの大変さを知っていたから、服を作る人には絶対ならないと思ってたんですけどね。でも、自分で何かを追求しようって思ったときに『作るしかないな』って腹をくくりました(笑)。気づくとキャリアはもう同じくらい。
山本:うまく説明できないんですけど、服を見て『ああ、加藤さんだな』と感じました。ユニセックスなアイテムで、男性的なわけじゃないけど女っぽくもない。でも女性が着る服だからしっかりと残されているというか、隠れた何かがある。
加藤:この春夏シーズンは特に、いろいろ考えるのはやめてひたすら‟好き”を突き詰めました。生地を作るのが好きなんですが、そこに向かいすぎると形が追いつかなくなってしまう。でも、結局好きなシルエットは変わらないんですよね。だからこの素材でこの形を作ろう、というアプローチ。一見一緒ですがどれも思い入れを持って作れたシーズンです。
山本:生地感が一定な気がします。なんだろう、いわゆる柔らかいとかではなく厚みが似ている・・・。
加藤:最近は‟軽さ”が流行りなんですよね。でも‟重さ”にはちゃんと意味があって、それだけ糸が打ち込んであるということ。「これは機屋さんも大変だったろうな」っていう、着たときに少し重さと硬さを感じる生地が昔から好きなんです。
元々、一緒にやっている生地屋さんが素晴らしくて。私はまだまだ素人だから抽象的なオーダーしかできないんだけど「加藤さんは絶対こういうの好きだよ」って提案してくれて、難題にも応えてくれる。
山本:ずっと着られそうですよね。UNION LAUNCHってきっと、春夏も秋冬も変わらない世界があって、一年季節問わずに着られるんじゃないかって思いました。好きなものは変わらないですか?
加藤:見てきたものは同じなんですが、出会った人の影響で変わったことは多くあります。バイヤー時代にヨーロッパの工場を巡るのが本当に楽しくってたくさん勉強させてもらいました。その経験を経ての‟好き”は変わらない。だからオーダーがつかないようなアイテムもしつこく提案し続けるんです(笑)。流行りのスタイルはよく分からないから、ひたすらいいと思うものを作り続ける。するとバイヤーさんやスタイリストさんが良さを見出してくれて、それでガラリと変わったりするんです。結局、人とのつながりなんだなって。面白いなって思います。

「誰かの手が入ることで違う光を放つ、それが面白い」(加藤)

加藤:今回(20SS)のルックを組んでいただいたんですが、マナさん早いですよね。すごいなって思いました。
山本:自分の中のルールがあって、直感を大事にしているんです。悩みだすと悩んじゃうじゃないですか、この仕事って。
何かリズムだったり、音を感じてスタイリングを作ったりするんですけど、今回は‟無音”がいいなと思いました。あえてスタイリングにポイントを作らず、パッと目にしたときにあまり温度を感じない。その真っ直ぐななかに、時々ちょっとクセを潜ませる。隠れキャラみたいな(笑)。
加藤:その通りですね。悩んでも、振り返って結果最初に戻ることが多いから。私も1stサンプルがそのまま展示会サンプルになるようにと思いながら作ってます。好きなものは決まっているから、結局2度、3度と作っても無駄になる。だから「絶対1発で決めよう!」って(笑)
山本:手がけていることは違いますが、考え方は私も一緒。「これだけしかないからできない」ではなくて「この枠の中で何ができるか」と考えるのが好きなんです。昔は「できない」と思ったりしましたが、ミニマムな中で何ができて、どれだけセンスが出せるか、意外にそうゆう方ががんばりどころ、見せ場だなって気持ちに変わって。するといろんなことが楽になった。それは経験の中で少しずつ学んでいったことです。
加藤:そうですね。私も「この生地をこの工場さんにお願いしたら何ができるだろう」と想像するのが楽しい。でも実際作ってもお店では売れなかったりして(笑)。そこで、やる‟人”が変われば意外と日の目をみるということを経験しているので、誰かの手がUNION LAUNCHに入ることが面白いんです。今回の撮影でも、マナさんの発想が入るからコレクションもまた違う光を放つというか。
山本:自分がやることでそのブランドをどう表現できるのか考えますね。ベースにあるものを壊さずに何ができるだろうと考えるのが楽しい。
加藤:スタイリストを目指したのは?
山本:地元は田舎だったからファッション業界の人なんて全然いなくって、普通に働いて、東京で暮らすことすら考えてませんでした。それが、母が亡くなったときに「ここにいるだけではダメだ」ってすごく思ったんですよね。若かったから勢いがあった(笑)
加藤:若い頃から活躍されているイメージでした。
山本:それこそ人との出会いの中で成長させてもらいました。ここ5年くらいは外国人のフォトグラファーと仕事をする機会が増えたんです。日本だとスタイリストが中心になって撮影することが多いけれど海外は全然違う。「この服は撮りたくない」とはっきり言われるんです。最初にリファレンスを送って、スタイリングを組んだものを見せてと、試験を受けてる感じ(笑)。でもそこから自分もすごく変わったなと思います。その経験が自分の中で消化されて、今どんどん楽しくなっています。

「服の‟深み”を理解する、それって大切なんだなって思います」(山本)

山本:12月に表参道ROCKETで作品展をやったんです。スタイリストって形に残すのが難しい仕事だから何ができるだろうって思い続けていて。それでたまたま声をかけてもらったから「これはもうやるしかない」と。でも関わってくれる人の優しさに触れると、改めて身近な人の協力があるから形になるんだなって感じました。私の小さなプロジェクトでもそうだから、加藤さんすごいなって思います。
加藤:私もそういうありがたい経験をするたびに大泣きしちゃうんです(笑)。ブランドとして洋服を作るところから始まってますが、‟協業のプロジェクト”というのをどうしても表に出したかった。美学としてはね、出さな方がカッコいいのかもしれないんですが、それでは何も変わらない。例えば「農家さんと協業してます」というのも、楽しくやっていることなんだからどんどん言っていこうって。服はカッコいいモノを追求して、プロジェクトとしてはとにかくいろんな人に会ってつなげていきたい。
山本:職人さんと協力しているというお話も深いなと思いました。私は作られたものをお借りしてスタイリングする立場だから、服の‟深み”をちゃんとわかった方がいいなと思っているんです。
加藤:元々コレクションを見るよりも工場に行く方が楽しいっていう怪しいバイヤーだったんですよね(笑)。それで、最初は芯地の扱いすら全然わからなかったのを工場さんがひとつひとつ丁寧に教えてくれて。
山本:なんでもそうだけど、直接声を聞くとより気持ちも入っていくから深くなりますよね。
加藤:フリーになって服を作り始めて、モノを作る立場で工場さんと付き合うようになったんですけど、家族経営でやっていけるような小さな工場が本当に立ち行かなくなってしまうのを目の当たりにして。そこから全て始まってるんです。私も本当にいろんな人に助けてもらってきたから。
山本:「ありがとう」って心から言えないといけない、初心を忘れちゃいけないなって思いますね。
加藤:だから、マナさんとも偶然お店で再会したときにもうすごい勢いで「一緒に何かやりましょう!」って盛り上がって(笑)
山本:加藤さんが地方でいろんなプロジェクトをしていると聞いて本当にいいなと思いました。私も何かお手伝いしたいなって考えてます。
加藤:ご出身の北海道というベースもあるし、ファッションというツールで何かを作ってもいいですよね。マナさんをテーマに何か形にしたい。
山本:ぜひ、参加します!まずは1回、加藤さんのホーム、富山におじゃましないとですね。

山本マナ(やまもと・まな)
北海道生まれ。雑誌、広告、カタログ、アーティストなどのスタイリングを手がける。
2009年に初の作品展『pleasure land』を開催。昨年12月に10年の時を経て、新たな作品展『Czesc=Hello』を表参道ROCKETで開催、2年の歳月をかけた写真作品を展示した。